Run and Gun

ひたすら書く。

映画『チワワちゃん』が良かった件。

今年の映画もいろいろと見始めているが、『チワワちゃん』が素晴らしかった。

 

chiwawa-movie.jp

 

 

時制をぐちゃぐちゃにしながら、フレッシュな演出(EDM!)とクラブミュージックで揺らしにかかる前半から、各人の証言から「チワワちゃん」についてドラマ的展開で掘り下げていく後半まで、すごく見応えがあった。

その証言も各人で全く違うことを言っていたり、いかにもミスリードっぽい発言が最後までスルーされたりするので、「あっ、これ主題は犯人探しじゃねえな」というのを演出だけで見せて行くのも、なかなかチャレンジングだけど成功していると思う。

 

何より、チワワの栄光とそのセンスを証明するかのようなダンスシーンで流れてくるのがPale WavesのTelevision Romanceだというこのセンス!*1

一瞬だけ流れる場面も含めて3回劇中で流れるが、そのどれもがインパクトを残している。

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あと、地味なところだけど、Instagram、LINEとしっかり現実のSNSの名前をしっかり出してそのやりとりをしっかり画として見せてくれるのがすごい真摯だなと。すごく作り込んでるのにSNSが架空でガッカリするパターン、邦画にありがちだし。

 

 

映画を観た後に、岡崎京子氏の原作漫画も拝見したが、原作も凄く読み応えがあった。1994年の作品とは思えないくらい、今見ても色あせない。2019年に読んでも、古臭いと思う感情がない。*2

また、映画自体も原作の主題をしっかり理解した上での肉付けが多いのも認識できた。まず、このメンバーがなぜ団結していったか、としての600万→パーティシーンの追加。

あと、映画後半の各自のインタビューシーンは、原作ではかなり唐突に放り込まれる印象が強いのを補完するために「なぜインタビューをするに至ったのか」その理由づけとしての栗山千明演じる編集者の使い方もそうかな。

 

他にも細かい部分でいろいろな差異があるが原作と大幅に違うところといえば、村上虹郎演じるカメラマン・ナガイのキャラクター造形だろう。

原作では手慣れなゆるーいプレイボーイだった彼を、映画では見た目はそのまま、純粋にチワワに片想いする男に置き換えている。*3

短編漫画を長編映画にバージョンアップするにあたり、片思いしている相手をひたすら見つめる彼の視線が、この物語に新しい深みを与えていると思う。

彼が浅野忠信演じるサカイといるチワワに話しかけに行くシーンは「お願いだから無事に終わってくれ!」と思わざるを得なかった。あと、ポスター持って帰るシーンも最高だった。

 

他のキャスト陣もとにかくよかった。おそらく(年齢的に)今後はもうこういう役はできなそうな門脇麦横綱相撲。*4

そして、チワワちゃんを演じる吉田志織の存在感。裏表がないのか、あるのかイマイチよく分からない感じが巧く出ていた。だからこそ、後半の証言シーンで翻弄されまくった。まんまと。

極め付きは今日本でクズい若者をやらせたら断トツナンバーワンの称号をほしいままにしている成田凌*5

門脇麦と、ほぼ初めて2人で向き合うあのシーン、本当に気持ち悪かった。本当に。

 

あと、原作でも唐突にラストに出て来て物語の綺麗にクロージングさせるクマ役を松本穂香が演じているが、ほんの数分の出番で、このチワワちゃん含む集団の総括をしっかりやり切っているのはなかなか熱かった。

 

そしてエンドロールで爆音で流れる『僕らの時代』。

もしかしたら、この映画を見て「何も解決していない」「ただただよく分からない映像を見せられただけ」という人もいるかもしれない。

一言こう言いたい。「そもそも、我々の毎日って未解決事件だらけじゃないっすかね?」

 

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*1:去年のサマソニでライブも観たけど演奏がとても沁みた。ほとんど曲知らなかったのに。

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*2:流石に言い回しとか、「モデル」の例として描かれているポスター画像とかは時代を感じますが。

*3:そして、原作での立ち位置は原作ではチョイ役だったハラダにほぼそのまま託している。これも上手い改変。

*4:直近だと『ここは退屈迎えに来て』でもそうですけど、この人は本当に嫉妬している役が巧い。話の本筋を逸らしすぎないくらいの嫉妬。

*5:ここは退屈迎えに来て』『スマホを落としただけなのに』を参照。